finalの完全ワイヤレスイヤホン・TONALITEをレビュー・評価!TONALITEは買いのポータブルオーディオ機器なのでしょうか?
はじめに
オーディオファンにとって、finalというブランドは常に「期待」と「畏怖」の対象です。彼らは単に流行を追うのではなく、物理学と心理音響学の深淵を覗き込み、他社が思いつかないようなアプローチで「正解」を提示してくるからです。
今回の「TONALITE」は、その集大成とも言えるモデル。特に「音色のパーソナライズ」という、これまで多くのメーカーが挑んでは「簡易的なイコライジング」に留まっていた領域に、finalは「身体形状の3Dシミュレーション」という極めてハードコアな手法で切り込みました。
正直、最初にこのニュースを聞いたときは「そこまでやるか?」と笑ってしまいました。でも、実際に届いた箱を開け、設定を終えて一音目を聞いた瞬間、その笑いは「驚愕」へと変わりましたA
final TONALITEの概要
まずは、この「TONALITE」がどのような経緯で世に放たれたのか、その背景をおさらいしておきましょう。
もともとは、2024年末から2025年12月19日までクラウドファンディングサイトで先行販売されていたモデルです。ところが、開始からわずか1カ月で支援額は約8,700万円、支援者数は2,700人を突破。この熱狂的なレスポンスを受けて、finalは「一刻も早く届けたい」と、予定を大幅に前倒しして2025年12月23日に一般発売を開始しました。
価格は39,800円(税込)。
フラッグシップとしては妥当なラインに見えますが、中身を知れば知るほど「この価格設定、経営的に大丈夫なの?」と心配になるレベルの技術が詰め込まれています。
final TONALITEの詳しい内容
さて、ここからは本機の核となる技術を詳しく紐解いていきましょう。他サイトのスペック表を眺めるだけでは分からない、finalの本気度がここにあります。
1. 魔法のパーソナライズ技術「DTAS for Personalized Timbre」
TONALITEの最大の武器は、世界初の技術「DTAS (Digital Timbre Analysis System)」です。
これまでの「パーソナライズ」は、聴力テストのように「ピ、ピ」という音が聞こえるかどうかで補正するものが主流でした。しかし、finalは違います。
専用アプリを使い、スマホのカメラで自分の「顔」と「耳の形」をスキャンします。さらに、イヤホンを装着した状態で耳穴内の測定を行い、ユーザー自身の身体形状を模した3Dアバター「アコースティック・アバター」を生成するのです。
このアバターを仮想空間でシミュレーションし、「あなたの耳の形だと、この周波数がこう反射して、こう聞こえるはずだ」という誤差を算出。それを打ち消すように音色を最適化します。まさに「自分専用の音響設計」をデジタルで行うわけです。
プロファイルは、アプリの「My Profiles」から以下の3段階で微調整が可能です。
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Ref- (Reference Minus): やや落ち着いた、モニターライクな響き。
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Reference: 基本となる最適化状態。
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Ref+ (Reference Plus): 響きの豊かさや明瞭度を一段引き上げた設定。
2. 有線フラッグシップの血統「f-CORE for DTAS」
音を出す心臓部には、finalの有線イヤホン最高峰「A10000」で培われた技術を投入した「f-CORE for DTAS」ドライバーが採用されています。
TWSのドライバーは通常、コストやスペースの制約で妥協されがちですが、TONALITEは別格。超低歪(音が歪まない)特性を持ち、DTASによる精密な信号処理を余すことなく空気の振動へと変換します。
3. ソニー製チップを贅沢に使った「トリプル・ハイブリッドANC」
ノイズキャンセリング(ANC)性能も抜かりありません。
なんと、ソニーセミコンダクタ製の独立チップ(CXD3784)をANC専用に搭載しています。多くのTWSがBluetoothチップ内でANC処理を兼任させる中、独立チップを使うことで、音質への悪影響を最小限に抑えつつ、強力な消音性能を実現しています。
モードは「音質優先」と「ANC優先」の2つが用意されており、シーンに合わせて使い分けられます。
4. Bluetooth 6.0とハイレゾ対応
最新のBluetooth 6.0に準拠。コーデックはSBC、AACに加え、ハイレゾ伝送が可能なLDACをサポートしています。ハイレゾ音源(FLACやDSD)をメインで聴くユーザーにとって、LDAC対応は必須条件ですが、TONALITEはこれを完璧にクリアしています。
5. 充実の付属品「DTASキット」
パーソナライズを正確に行うために、箱の中には「ARマーカーシール」や、髪の毛がスキャンの邪魔にならないようにする「ヘアバンド」まで同梱されています。この「ガチ感」こそがfinalです。
また、新型イヤーピース「FUSION-G」も付属。シリコンの快適さとフォーム材の遮音性をいいとこ取りした設計です。
final TONALITEの内容まとめと仕様表
ここで一旦、情報を整理しておきましょう。
特徴まとめ
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DTAS技術: 身体形状スキャンによる世界初の音色パーソナライズ。
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f-CORE for DTAS: 有線フラッグシップ譲りの超低歪ドライバー。
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専用ANCチップ: ソニー製CXD3784による高精度な騒音抑制。
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ハイレゾ対応: LDACコーデックによる高音質伝送。
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新開発イヤーピース: 快適性と遮音性を両立した「FUSION-G」。
基本仕様表
| 項目 | 詳細 |
| 通信方式 | Bluetooth 6.0 |
| 対応コーデック | SBC, AAC, LDAC |
| ドライバー | ダイナミック型「f-CORE for DTAS」 |
| 再生時間 | 本体最大9時間 / ケース込み最大27時間 |
| 防水性能 | IPX4 |
| ノイズキャンセリング | トリプル・ハイブリッドANC(独立チップ搭載) |
| パーソナライズ | DTAS for Personalized Timbre |
| 発売日 | 2025年12月23日 |
| 価格 | 39,800円(税込) |
final TONALITEのレビュー
さあ、いよいよ本題のレビューです。
私は普段、バッハの無伴奏チェロ組曲や、マーラーの交響曲、そして繊細なピアノ・ソナタをハイレゾ(96kHz/24bit以上のFLACやDSD 5.6MHz)で聴き狂っている人間です。そんな「耳のうるさい」レビュアーから見た、TONALITEの真価を語ります。
音質面:パーソナライズがもたらす「霧が晴れたような」視界
まず、DTASを通さない「素」の状態でも、TONALITEの音質はTWSとしてトップクラスです。finalらしい、特定の帯域を強調しないフラットで誠実な音がします。
しかし、DTASの設定を完了させた瞬間、世界が変わります。
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中高域の透明感: クラシックで最も重要な「弦楽器の倍音」が、恐ろしいほど鮮明になります。バイオリンのハイポジションの音が、耳に刺さることなく、スッと天空に抜けていく。これは自分の耳の形状に合わせて、不要な共鳴がデジタル的に補正されているからでしょう。
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低域の解像度: ティンパニの皮が震える音や、コントラバスの重厚なピッチカートが、ボワつかずに「形」を持って聞こえます。「ドーン」という塊ではなく、「トーン」という音程として低音が認識できる。これはオーケストラを聴く上で極めて重要です。
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楽器の生々しさ: 特にRef+設定にすると、ホールの空気感まで再現されます。録音現場のノイズや、演奏者の息遣いまでが、まるでそこにいるかのように立ち上がってきます。
適合コンテンツのジャンル
文句なしに「生楽器系」が最強です。
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クラシック: 大編成の交響曲でも楽器が混ざり合わず、配置が見えるようです。
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ジャズ: ウッドベースとピアノの分離感が素晴らしく、スネアのブラシの音が立体的です。
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ボーカル: 歌手の口の形が見えるような、リアルな定位感が楽しめます。
逆に、ドンシャリ(低音・高音強調)で派手な音を好むEDMファンには、少し上品すぎるかもしれません。
ANC性能:静寂すらも音楽的
ANCをオンにしても、特有の「耳が詰まるような圧迫感」がほとんどありません。
ソニー製チップの恩恵か、低域の騒音(電車の走行音やエアコンの唸り)を消す能力は極めて強力です。一方で、人の声などの高い音は自然に残る傾向にありますが、音楽を流してしまえば全く気になりません。
「音質優先モード」にすると、ANCの効きは少しマイルドになりますが、その分音の広がりがさらに豊かになります。私は移動中はANC優先、自宅の書斎では音質優先と使い分けています。
機能面:DTASのセットアップは「儀式」
DTASの測定は、正直に言って「面倒くさい」です(笑)。
ARマーカーを壁に貼ったり、ヘアバンドで耳を露出させたり、静かな部屋でじっとしていなければなりません。所要時間は30分ほど。
しかし、この面倒なステップこそが、結果として「自分だけの究極の音」を生み出すための「聖なる儀式」のように感じられてくるから不思議です。一度設定してしまえば、あとはアプリが覚えてくれるので、最初だけの辛抱です。
装着性
本体は少しボリュームがありますが、耳に触れる部分の形状が絶妙で、重さを感じさせません。
新開発のイヤーピース「FUSION-G」が非常に優秀。フォーム材の遮音性がありながら、シリコンのような手軽さで装着でき、長時間着けていても耳が痛くなりにくいです。マーラーの長い交響曲(80分以上!)を通しで聴いても快適でした。
接続機器の汎用性:ここが弱点!
さて、あえて厳しいことも言います。
本機はaptX系のコーデック(aptX Adaptiveなど)に非対応です。AndroidユーザーでLDACが使えない古い機種や、Snapdragon Soundに期待している方にはマイナスポイント。
また、LE Audioへの対応も(現時点では)明記されておらず、最新の低遅延・高効率規格を求める層には物足りないかもしれません。iPhoneユーザーならAACで十分高音質ですが、やはりTONALITEの真価を味わうなら、LDACが使えるDAP(デジタルオーディオプレーヤー)や最新Androidスマホで聴きたいところです。
バッテリー性能、携帯性
本体単体で9時間は、このクラスの多機能機としては健闘しています。ケース込みで27時間。
ケース自体は丸みを帯びたデザインで、ポケットに入れても邪魔になりません。ただ、最近の超小型TWSに比べれば一回り大きいかな、という印象です。
デザイン性、ファッション性
finalらしい、質実剛健かつ気品のあるデザイン。
派手なロゴやLEDはなく、マットな質感で統一されています。スーツスタイルでも、カジュアルな服装でも、耳元に「こだわり」を感じさせる絶妙な佇まいです。
競合機との比較
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Sony WF-1000XM5: ANCの静寂さではソニーに軍配が上がるかもしれませんが、「楽器の音の正しさ」ではTONALITEが圧倒します。
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Sennheiser Momentum True Wireless 4: ドイツの雄との比較になりますが、ゼンハイザーが「音楽的な演出」が上手いのに対し、TONALITEは「個人の身体に合わせた精密な描写」で勝負しています。
コストパフォーマンス
メーカー側が「ROI(投資利益率)で考えたら、この価格で出せる原価ではない」と漏らすほど。
確かに、独立ANCチップを積み、独自ドライバーを開発し、複雑なパーソナライズアルゴリズムを構築して39,800円。これは、finalが「フラッグシップを普及させたい」という一種の狂気に近い情熱で値付けをした証拠でしょう。「音質に対するコスパ」という意味では、現時点で世界一かもしれません。
final TONALITEのメリットとデメリットは?
final TONALITEならではの価値や長所は?
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世界唯一のパーソナライズ体験: 自分の身体形状をデータ化して音を作るという、未来のオーディオ体験。
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有線ハイエンド級の解像度: TWSであることを忘れさせる、圧倒的な情報量と歪みのなさ。
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「正解」の音が手に入る: 耳の形による聞こえ方の個人差をリセットできるため、製作者が意図した音に最も近づける。
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ANCと音質の両立: 独立チップによる、音を殺さないノイズキャンセリング。
final TONALITEの弱点や改善要望点は?
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セットアップのハードル: ARマーカーやヘアバンドを使ったスキャンは、ガジェット慣れしていない人には少し難しい。
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コーデックの制約: aptX系非対応は、一部のAndroidユーザーには痛い。
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アプリの安定性: 3Dアバター生成は負荷が高いため、スマホのスペックによってはアプリが重くなることがある。
final TONALITEがおすすめのユーザーなど
final TONALITEがおすすめのユーザーは?
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クラシック、ジャズを愛する人: 生楽器の質感にこだわりがあるなら、これ一択です。
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「自分専用」という言葉に弱い人: 既製品の音がどうしても合わないと感じている人。
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有線イヤホン派だが、利便性も欲しい人: メイン機を有線で使っている人が、外で聴くためのサブ機(あるいはメイン代替)として。
final TONALITEがあまりおすすめではないユーザーは?
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手軽さを最優先する人: 設定に時間をかけたくない、箱から出してすぐ最高に鳴らしたいという人。
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重低音至上主義の人: 地響きのような低音を求めるなら、他のブランド(BeatsやBoseなど)の方が満足度は高いかも。
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動画視聴やゲームがメインの人: aptX Adaptive/Lossless非対応のため、遅延に敏感な用途には向かない可能性があります。
レビュアーによる私感まとめと本機が買いかの結論
結論から言いましょう。
もしあなたが「音の質感」に命をかけているなら、今すぐ買うべきです。
私はこれまで数えきれないほどのイヤホンを試してきましたが、TONALITEが提示した「個人の身体をシミュレーションに取り込む」という手法は、オーディオの歴史における一つの特異点です。
クラシック音楽を聴いていると、オーケストラの弦楽器セクションが「面」ではなく「個々の奏者の集まり」として聞こえてくる快感があります。ハイレゾ音源の持つ膨大な情報を、私の耳の形に合わせて整理整頓して届けてくれる。この体験に39,800円という価格は、安すぎるとすら感じます。
ただし、「完璧ではない」ことも付け加えておきます。
aptX系への非対応や、スキャンの手間は、人によっては「大きなマイナス」になるでしょう。また、ワイヤレスである以上、数年後にはバッテリーの寿命が来ます。でも、その寿命が尽きるまでの数年間、これほどまでに「自分に寄り添った音」を奏でてくれる相棒は他にいません。
「買いか、否か?」
「音楽を、単なるBGMではなく『体験』として捉えている人」にとっては、2025年最高の買い物になるはずです。逆に「YouTubeが見られればいい」という人には宝の持ち腐れ。これは、聴き手を選ぶ「プロ仕様のTWS」なのです。
まとめ
final TONALITEは、単なる「多機能なイヤホン」ではありません。
それは、デジタル技術を使って「人間の耳」というアナログな個性を解明し、音楽との距離をゼロにするためのデバイスです。
クラウドファンディングで8,700万円もの支援を集めた理由は、単なるブランド人気ではなく、多くのユーザーが「自分だけの音」を心の底から求めていたからではないでしょうか。その期待に、finalは見事な回答を出してくれました。
もし、あなたがコンサートホールの特等席を、自分のポケットに入れて持ち歩きたいと思うなら。
TONALITEの蓋を開け、あの「儀式」を乗り越えてみてください。その先には、今まで聴いていたはずの曲が、全く新しい表情であなたを待っているはずです。
さて、レビューを書き終えたところで、私はもう一度、このトナリテでマーラーの交響曲第5番の「アダージェット」を聴こうと思います。あの弦楽器のうねりが、私の耳の形に合わせてどう響くのか。それを確かめるのが、今、何よりも楽しみなのです。
あなたは、自分の耳が持つ本当のポテンシャルを、まだ知らないだけかもしれませんよ!


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